キッチンバイオ2

(from キッチンバイオ1)

 ボブはアメリカ、マサチューセッツ医科大学DIYbio.orgと呼ばれるボストンを拠点としたグループの共同設立者だ。このグループはDIYbioを、開放性や安全性を重視するアマチュアサイエンティストにとって価値のあるものにしようとしてる。
 ボブはDIYbioと自家製ロケットを比較し、キッチンバイオの人気が上がるだろうと期待している。そして彼は、このDIYbioの動きは材料や装置が手に入りやすくなったためでもあると話す。新しい個人ベースのコミュニティーが専門家の枠の外にできるようになるだろうし、他(分子生物学以外)のバイオテクノロジーの分野でも同じことが起きるだろう、と言う。
 DIYbioのもう一人の共同創設者マッケンジーはかつてiGEMに携わっていた。現在DIYbioに関わる人々はすでに技術を持っており、より実践的な科学に関わりたいと思っている、と彼は指摘する。例えば、物理生物学をやりたいバイオイフォマティシャンがいる。袖をまくって実験をしたいと思っている計算家がいる。
 実際DIYbioの動きは、iGEMにインスピレーションを受けている。そしてこの大会は、合成バイオロジーやバイオシステムエンジニアリングを勉強したいという世界中の学生から注目を集めている。
 ボブは生物学のトレーニング中の学生を見てインスピレーションを受けるという。彼らの何割かは新入生ながらワクチンやバイオ燃料を開発している。インスピレーションと技術へのアクセスとう二つの要素が、新たな世代がバイオロジーとテクノロジーに興味を持たせるのに必要になるのだ。物理学者からバイオ起業家になったロバート・カールソンはBiodesic社をシアトルに設立した。この会社はDIYbioの動きをポジティブに捉えている。「知識が増えれば皆前に進みます。DNAに怖がる必要もありません。あなた自身がDNAの集合体ですから。あなたはDNAを抽出できるし分析し結果を特定の疾患に関連付けることができます。」と彼は言います。
 カールソン氏ははまた、コンピューター愛好家がガレージで行っていた実験から生まれた革新的結果がシリコンバレー出現の原動力となったように。DIYbioも利益をもたらすようになると期待している。「我々は始まりを見ているのです。」「これはアップルのiPhoneアプリマーケットのように一晩で急成長するでしょう。DIYbioや合成バイオロジーが組み換え技術と同等の影響力を持っているかここでは論じないが、遺伝子合成と解析に掛かる費用は劇的に低下し、その生産性は劇的に伸びています。今なら数千ドルで、数年後は数百ドルで自分でデザインした遺伝子を合成できるようになでしょう。」
 教育や経済的な有用性が論じられる一方で、セキュリティアナリストの中には、それが悪用されるのではないかと心配する声もある。モントレー研究所のシニアフェローのヨナタン・タッカー氏は「生物、特に病原菌、を使った実験には問題があります。生物は自己複製し、どこへでも移動してしまいます。このリスクは他のDIYサイエンスが経験してこなかったものです。」と言う。「こうしたアマチュア科学者をどう規制するか、どうやって個人、そして社会全体を守っていくのかを慎重に考えなくてはなりません。」
 タッカー氏によれば、専門家たちの間では非常に活発に規制に関する議論が行われているのだが、アマチュアの間ではほとんどそれがないという。「目を見張るような効果がDIYにはあり、それが若い人を惹きつけています。」とタッカー氏は述べている。「前世代がコンピューティングに惹きつけられたのとまったく同じような形で、今の若い人たちが引きつけられている、その次の新しい分野が合成バイオロジーなのです。」DIYbioはコンピューターのようにもろ刃の剣である。社会に利益をもたらす可能性もあればそれと同様に、テロなどの行為といった悪用の危険性もある。「我々、そして政府はDIYバイオロジストのように気楽にこの問題をとらえてはいけません。」

・・・(中略)しかし、規制がかかるようになっても、DIYバイオロジストにとってこのDIYbioの動きは、健康医療、法医学、そして社会生活にバイオテクノロジーがますます応用されているこの世界では、素晴らしい発展であることには間違いないと確信している。遺伝子検査の仕組みが、マジックではなく単なる生化学だと分かれば、それをより受け入れやすくなるだろう。・・・

(Kitchen biology, EMBO reportsより抜粋・改変)