禅の空間 GenSpace

全ての情報を共有し、より速く学びより速く教えられるようになるべきだとするハッカー精神はバイオを扱う者たちにも当てはまる。彼らはバイオハッカー(もしくはバイオパンク)と呼ばれる。
このようなバイオハッカーの精神を追求する人々が集まり2010年12月10日に米ニューヨーク市内で「開かれた共同体の実験室(community lab)」を開いた。これは生物学者、芸術家、エンジニア、作家たちが集まって作成された非営利団体の『開かれた生物学実験室』だ。この場所は遺伝子と空間/宇宙という意味を合わせて、「禅の空間(GenSpace)」名付けられた。
ニューヨーク市内のブルックリンの通りの建物の7階に位置するこの実験空間には、ゲノムを設計、組立、製作する合成生物学をはじめ、生物学の実験をすることができる実験装置が備えられている。参加者のイムさんは、「基本的な分子生物学の機器はすべて完備している」と述べ、「2年前から気の合う人々と、あちこちで、複数の実験装置や化学物質を寄せ合い、この実験室は(政府が認定する)生物安全性レベル1の評価を受けた」と紹介した。 彼は今ここで「事務長(executive secretary)」の役割をしながら、自分だけの実験的なプロジェクトも実行しているところだ。

禅空間では、様々な機器を利用してかなりの生物実験を行うことができる。 例えば、最近の生物学実験室の基本的なPCRやDNA分析用電気泳動の動機、他にも遠心分離器、冷凍機、インキュベーター、真空チャンバー、マイクロピペットなどの実験道具やさまざまな化学物質が揃っている。 このような実験道具は、社会のために研究しようという退職した科学者にも、仕事帰りの普通のサラリーマンにも、新しい知識を学ぼうとする学生にも、誰にも開かれている一種のコミュニティ工房というわけだ。

イム氏は、「誰もがこの実験室を利用することができる」と述べた。「公式の科学と非公式の科学の分離をなくそうというのが禅の空間の目標の一つです。」21歳以上の会社員さんからは、月100ドルの会費を受け、未成年者と学生は無料で利用できるという。もちろん、禅の空間の関係者は会費を出す。 諮問委員会の指導者としては、現職の科学者たちが参加している。「さまざまな分野の科学者たちが諮問委員会に参加したり、学生たちを個人的に指導したりして支援しています。MIT、コーネル大学コロンビア大学ニューヨーク大学の教授たちが、現在のGenspaceの委員会に参加されています。」

禅空間はさまざまな面で興味深い。 まず、専門の研究者たちだけであった実験室を誰もが参加できるように閾値を下げ大衆化した。ここでは、専門家の能力、大学や研究機関への所属は一切関係がないという点も独特だ。ここの活動家たちは生物学の研究者だけでなく、様々な分野の人々で成り立っている。「三人の専門の生物学者、物理学の学生が一人、そしてメディアアートを担当する方が一人、数学を専攻し、今では美術を勉強する方の一人、フリーランスの科学ライターが一人、建築家が一人参加しています。」
このように多様な人々が集まったバイオ実験室は、今後どのような姿に変わってゆくのか、彼らの実験の成果はどのような姿で現われるのだろうか。

また、自分のニーズや動機に基づいて研究計画を立てて実験を進めることができるという点も、通常の実験室と異なっている。イム氏は、最も簡素な人工細胞を作ったり、大気成層圏に漂う空微生物を採集し塩基配列を分析する計画を立てている。「私は、人工細胞膜を作り、その中の細胞の蛋白質発現の要素を組み入れて原始的な人工細胞を作ろうとしています。また、高度30kmまでの成層圏に気球を浮かべて微生物を採集した後、塩基配列を解析するプロジェクトを、各地の高校生と一緒に推進する計画も立てています。」他の参加者たちが立てた実験計画には、微生物のチェスゲームの開発などのように、伝統的な研究室では生まれにくい構想もある。

hani.co.krより 抜粋・翻訳)